暗号技術は1990年代にRSA暗号や楕円曲線暗号が暗号通信ソフトウェアSSL/TLSに実装されたことによりインターネットにおいて広く普及した。その後、情報技術の進歩により、IoT機器やクラウド環境での利用、更にはプライバシー保護・暗号通貨・AIセキュリティなど、幅広い場面で暗号技術は利活用されるようなった。また、2000年代には双線形性ペアリングの数理的性質により、従来では効率的な構成が難しいとされたIDベース暗号などの優れた機能を持った高機能暗号が実現されることになる。高機能暗号では、暗号化では完全準同型暗号・関数型暗
号、ディジタル署名ではブラインド署名・リング署名、閾値秘密分散を用いた秘密計算や分散暗号などが提案されており、暗号化した状態で演算を可能にする機能や署名者の匿名性を保つディジタル署名などが実現できるようになっている。
一方、RSA暗号・楕円曲線暗号・ペアリング暗号は、その安全性を支える素因数分解問題と離散対数問題が大規模な量子コンピュータにより高速に解読されるため、危殆化することが知られている。2016年には米国標準技術研究所NISTにより耐量子計算機暗号の標準化プロジェクトが進められており、格子暗号・符号暗号・多変数多項式暗号・同種写像暗号などが主要な方式となっている。これらの耐量子計算機暗号を構成する際には、それぞれ最短ベクトル問題・シンドローム復号問題・多変数多項式問題・同種写像問題などの計算困難性を基にしており、これらの数理特性により暗号方式の安全性や効率性、更には高機能化が大きな影響を受ける状況にある。

